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暇人のイマジン

書評とイマジンを、だだもらしていこうというヴログ。

乙一 「ZOO 1」

中田永一・乙一 書評

鼻に水入ったり、殴られた時に感じる「鼻の奥が痛いにおい」ってあれ、なんなんだろうな。ともあれ、今個人的流行りの、乙一

            ZOO〈1〉 (集英社文庫)

 

Oの中に乙一、とあるのがなんともスタイリッシュ。やっと黒乙一っぽい話を読むことに成功。たぶん黒。

全体的な読了感としては、なんかカチッとした掴みどころがないというか、良く言えば多彩、悪く言えば・・・思いつかなし。真の乙一愛好家からすれば、多彩というのは合ってないのかも分らんが、これだけよく色んな感情を書き出せるもんだなあ、と。

ていうか、白乙一だの黒乙一だの自分で言っておきながら、そんな白黒つけるもんでもないなあ、それぞれの話はそれそのままのお話の色があるでしょう、とも思う。
ただ、話のイメージをつかむのに便利ではある。

 

・カザリとヨーコ ★★☆☆☆
カザリとヨーコは一卵性の双子。容姿はそっくりだが、待遇と性格は全く違う。カザリは母からも愛され、学校でもちやほやされる勝気な美少女。一方、ヨーコは母から虐待的な扱いを受け、家でも学校でも隅っこでジトジトしている。苦難の道を歩むことを余儀なくされたヨーコであるが、ふとしたことからとあるおばあちゃんと仲良しになり、おばあちゃんの家に入り浸るようになる。この世で唯一の安住の地を見つけたヨーコ。しかし、そんなヨーコに耐えがたい悲劇が襲う。

すごい、なんだろう。言葉が出てこない。
ヨーコとおばあちゃんが可哀そうで可哀そうで・・・。強者と弱者のあいだにある、なんとも言い難い汚く醜悪な差別をみるような気がします。
母はつらく当たっていたヨーコはともかくとして、カザリのこともちゃんと見てなかったのね。服を取り換えただけで見間違って殺しちゃうんだもの。カザリはその名の通り、単なる「飾り」としてしか認識していなかったんでしょうなあ。

なんで母はヨーコにあんなに辛く当たるんだろう、双子姉妹でもこんなに扱いが違うのだろう、とそれは分からない。母ひとりで双子姉妹を育てるのは、そんなにも大変なんだろうか。精神的に参っちゃってたんだろうか。

母やカザリの仕打ちに心打ちひしがれながらも、結びはヨーコに幸あれって感じでまあまあ爽やか。

 

・SEVEN ROOMS ★★★★★
気付くと弟と姉ふたり、知らない部屋にいた。無機質なコンクリートの正方形、部屋の真ん中には溝があって左から右へ汚水が流れている*1。窓などはなく、出口と思しきところに取っ手のない鉄の扉がはまっている。ここはどこ、なぜここにいる?溝から脱出を試みるが、両隣にあったのはおなじような正方形の無機質な部屋だった。そして、女の人がいる。同じようになぜここにいるか分からない。やがて、ふたりはこれから待ち受ける壮絶な運命に立ち向かうことになる。

真っ黒!黒だよ、これは。
ぶちゃけて言えば、サイコキラーに閉じ込められて、ただ死を待つのみ。という話。
齢25にして、ちびるかと思った。というか、自分がその状況に置かれたと考えると、考えたくもないのだが、多分ちびる。
にもかかわらず、この姉弟はすごい。なんでこんなに冷静なんだ。なにか特別な精神的訓練でも受けているのか、元々神経が切れて感度が弱いのか、それとも僕が齢25にしてナイーブすぎるのか。

最後の姉の思いや状況、弟と他の女たちの思いを想像すると、なんとも切ねえ。というか切ないなんて言葉では表せない壮絶さがある。救いはあるような、ないような。

読了後、めずらしく「ほぉー・・・!」と呆けては数秒固まったお話だ。
悪趣味とかそういうんでなく、短編ホラーとしての衝撃が今までにないものだったので、五つ星。

 

・So‐far そ・ふぁー ★★★☆☆
僕が幼稚園に通っていた頃、両親がおかしくなった。というのも、僕には父も母も見えるのに、父と母にはお互いの姿が見えないらしい。それに、「これから二人で大変だな・・」「お父さんが死んじゃったけど頑張ろうね」なんて変なことをいう。どうやらどっちかが死んでしまったらしい。でも死んだのがどっちなのか、それは僕にはわからなかった。僕だけが二人の世界を共有できるらしかった。そしていつか、どちらかの世界を選ばなくてはならない気がしていた。

読了後、すぐには腑に落ちなかったが、100秒ほど沈思黙考してみるとなんとなく合点がいった。幼子のある種の想像力、自己暗示を描いたお話なんかなああ。
SO(重要な他者、配偶者を指す)とFar(遠くに、離れて)という言葉と、ソファ(家具)をかけた、ダブルミーニングっぽいタイトルがなんとも粋。この連結、よく思いついたなあと思う。すごい。まあプロ作家さんだからすごいこと思いつくのが仕事なんだけども。

話としては夫婦喧嘩なんだろうけど、それがこじれるとこんな風になってしまうとは。
姪と接していても思うが、幼子はほんとに何を考えて何にどんな影響を受けるのか、よくわからなくて不思議で、だから少し怖い。
そんな風に思った少し後味の悪い、不気味さが漂うお話。

 

・陽だまりの詩 ★★★★★
人間が死に絶えた世界で作られた私。どうやらサイボーグ、人造人間の類のようだ。私の使命は、生みの親である彼の最期を見届け、土に還すこと。彼の身の回りの世話とその使命以外に、私の存在理由はなかった。彼は自身の死を見届けるにあたって、「死」というものを分かるように、と私に言った。しかし設計の段階でそんなものがプログラムされていない私は、死がどんなものか知るわけがない。なぜ設計の段階でプログラムしてくれなかったのか。そして私は知る。死というものと、彼の秘密を。

距離的な合理性を優先して花を踏んで歩いていたが、いつしか踏まずに歩くようになった。
風の雑音としか認識しなかった音が、風鈴からくるものだと感じられて心地よいと思うようになった。
死んだ鳥を土に還すために投げていたが、自分と一緒に傷つき死んだウサギを治してくれ、と頼むようになった。

無機質なサイボーグであった私が、段々と人間らしくなっていくその様は、なんとも情緒に満ちている。「人間らしく」なんてこんな言葉は古臭いかも知れないが、人間が人間であるために、それはやはり蔑ろにしてはいけないことだと、読了後思った。

 

とりわけ新鮮だったのは、愛と死が表裏の関係にあるという事。

「あ、・・・あ、・・・」
 私は口を開けて何かを言おうとした。しかし言葉は出なかった。胸の奥からわけのわからない痛みを感じた。私は痛みとは無縁だがなぜかそれを痛みだと認識した。力が抜けていき私は膝をついた。
「私は・・・」
 涙を流す機能も私にはついていた。
「・・・この子が、意外と好きだったんです」
 彼は痛ましいものを見る目で私を見ていた。
「それが死だ」
 そう言うと、私の頭に手を載せた。私は知った。死とは、喪失感だったのだ。

中略

 私は寝かされたまま首を横に向け机の兎を見つめた。彼も近いうちあの兎のように動かなくなるのだ。いや、彼だけではない。鳥にも、私にも、やがて『死』は訪れる。これまでそのことは知識として頭の中にあった。しかし今のように恐怖をともなったことはない。
 自分が死ぬときのことを考えた。それはただの停止ではなかった。この世界すべてとの別れであり私自身との別れでもあった。どんなに何かを好きになっても必ずそうなる。だから『死』は恐ろしくて悲しい。
 愛すれば愛するほど死の意味は重くなり喪失感は深くなる。愛と死は別のものではなく同じものの表と裏だった。

                           192~4ページ

愛するものが生まれた時、死はその色を濃くする。
切ない、の一言だ。どうしようもねえ、なんだこれ。冷たいものと、温かいものが、それぞれ完全に溶け合わずにないまぜになっているような感じ。
何かを愛すれば愛するほど、死にたくない。死から遠ざかりたい。でもそれは生きていることの、残酷で美しいひとつの証でもある。

だから、私の気持ちがよく分かるような気がした。
こんなことを教えてくれた彼が憎い。そもそも、生み出したりしなければこんな思いをせずに済んだ。どうしようもなく憎い。心の底から憎い。
そして、その憎しみと同じだけ、あるいはそれ以上に彼の存在が恋しい。
それは、なんとも言い表しがたく、心とやらの奥底に静かに染みわたる感情です。

「何かを好きになればなるほど、それが失われたとき、私の心は悲鳴をあげる。この幾度も繰り返される苦しみに耐えて残り時間を生きていかなければならない。それはどんなに過酷なのだろう。それならいっそのこと、何も愛さない、心のない人形として私は作られたかった・・・」
 鳥の鳴き声が、外から聞こえた。私は目を閉じて、青空を数羽の鳥が飛んでいる場面を想像した。瞼を閉じたとき、目の縁にたまっていた涙がこぼれた。
「でも、今、私は感謝しています。もしもこの世界に誕生していなければ、丘に広がる草原を見ることはなかった。心が組み込まれていなければ、鳥の巣を眺めて楽しむことも、コーヒーの苦さに顔をしかめることもなかった。そのひとつひとつの世界の輝きに触れることは、どんなに価値のあることでしょう。そう考えると、私は、胸の奥が悲しみで血を流すことさえ、生きているというかけがえのない証拠に思えるのです・・・」 

 感謝と恨みを同時に抱いているなんて、おかしいでしょうか。でも、私は思うのです。きっと、みんなそうなのだと。ずっと以前にいなくなった人間の子たちも、親には似たような矛盾を抱えて生きていたのではないでしょうか。愛と死を学びながら育ち、世界の陽だまりと暗い陰を行き来しながら生きていたのではないでしょうか。

                           204,5ページ

人間がいなくなった後も、人間である僕が共感できる事件がここにあった。もちろんこの話だって人間が作ったもんだから、それは当たり前なのかもしれないけど、時空を超えた心あるものの死というこの話は、なんだかとても響く。
乙一作品で一番ぐっとくるお話だった。五つ星。では足りないくらい。

 

・ZOO ★☆☆☆☆
毎朝、僕のポストには一枚の写真が入っている。誰かの死体だ。よく見ると、僕の彼女だ。僕の彼女は誰かに殺害され、毎日写真を撮られ、その写真は僕の元に届けられる。写真を撮ったのは殺人犯に違いない。かわいそうな僕の彼女。僕は必ず犯人をつきとめる。

黒だなあ。しかも気持ちが悪い、どろどろとした黒だった。
何を隠そう、主人公がその殺人犯なんだが、罪から逃げたい心と、愛する彼女のために犯人に罪を償わせたい心が矛盾して同居している男の話。

周囲には彼女を失った哀れな青年として、それでいて犯人を健気に追い詰める気丈な青年としての役を演じる。その一人芝居がえんえんと続き、彼女と行った動物園の看板の異常に気付き、・・・話が終わる。

ぱっと読んだ限りでは、サイコパスというか、殺人を犯した人ってこういう風に考えるんだなあ、って感じで読んでたんだが、愛する者との永遠を誓うために殺害って話も聞いたことがあるので、それならばある種究極の愛の物語ということもできる。
だからといって、それがいいということにはならないと、僕個人としては思うけど。
なんだか、手放しにはできないような哀しい話。

 

 

「何なんだこれは!」「ジャンル分け不能」と裏表紙で紹介されてるけど、ほんとにそうだなあと思う。乙一の描き分ける世界観、感情の表出はカラーフル
この本は凹凸があって、けっこう好きだ。ZOO2も読んだろ。

 

 

*1:左から右へ流れているということで、逆だがムーディ勝山という芸人を思い出してしまった。彼は今元気にやってるんだろうか