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暇人のイマジン

書評とイマジンを、だだもらしていこうというヴログ。

乙一 「平面いぬ。」

なんでこんなに寒いだ。大寒波だと。地球温暖化よ、いずこ。 

寒いけれども、暗いところで待ち合わせ、百瀬と読んでなんだか好きになってしまった乙一乙一には黒と白があるって話を聞いて、上のふたつはシロだなと思ったんで黒っぽいのも読んでみようという事で、平面いぬ。

平面いぬ。 (集英社文庫)

平面いぬ。 (集英社文庫)

 

結果としては、真っ黒ではなかった。
少しダークぽい要素はあるものの、なんつうか灰色乙一みたいな?
ただ、えぐい部分もあって、なんとなく黒の片りんを感じる。
4篇の短編集ですた。
たまには、個人的なお気に入り度でもつけてみるべし。

・石ノ目 お気に入り度★★☆☆☆
その目を見た者を石にしてしまうという恐ろしい化け物、石ノ女。その伝承の残る山中で遭難したふたりの男は、山の中にひっそりと佇む廃墟同然の奇妙な家に助けを求めた。住んでいた老婆はふたりをやさしく迎えてくれたが、様子がどこかおかしい。もしや、この女は話に聞く石ノ女ではないか?家の周りに無数の石像を見つけたふたりは疑いを強める。いや、あれはたかが伝承だ。しかし、あの石像は・・。この女は本当にあの石ノ女なのか?

て感じの話。
言い伝えが段々とリアルになっていく様子が面白かった。こんなに素直に受け止められるもんなのかね、伝説って。得体のしれない化け物に囚われるという、その状況がホラーっぽい。
石ノ女を名乗る女が実は主人公の母親だった、というのもうすうす感じながら読んでいたけど、母と子の最期の場面は少しくぐっとくるものがある。母の子を慕う思いが。

おわりに、自分も死ぬときは石になって死にたい、というのはなんだか素敵というかロマンがある。魂もなにもかも、石像となった自分に閉じ込められている気がする。
いやそう考えてみるとやっぱり、石になるのは嫌かもしれない。風化して崩れない限り、半永久的にそこにいるわけだからね。地縛霊になってまう。死んだらガンダーラに行きたいものです、つくづくと。

そういえば、不可解な状況で女に閉じ込められるということで、安部公房の「砂の女」に似た雰囲気があった。

 

・はじめ ★★★☆☆
はじめという友人がいた。そいつは女で僕らと同じ学年で、そんなとこは普通だけど変わってるところがひとつある。はじめは僕らの幻だった。幻だから僕らの他にはその姿は見えなかった。なぜならはじめなんて人間は存在しないから。でも僕らには見えた。はじめは僕らがある嘘によって作り出したから。はじめと遊ぶ日日が続くが、はじめはある日消えてしまった。小さい子供をかばって命を投げ出したらしい。そんなはじめの一周忌がくる。

 

生き物係とか、水路の探検とか、田舎の小学校で育った自分としてはノスタルジイを誘う描写がたくさんあって、そこが好き。生き物係はどこでもあるのかもわからんけど。
あと、はじめの噂が広まっていく様子もなんとなく懐かしい。ネットが今のように普及していない時代に、ポケモンの裏技とか誰でも知ってるのはなんでだったんだろう、とそんなことを思う。
郷愁の宝庫だす。

はじめは幻にもかかわらず、家があって、家族がいて、受験もする。確固たる少女、そして思春期を迎える乙女としてのはじめがそこにいる。とはいえ幻であることには変わりないので、現実との見えない交錯が多々あり、それがなんとも切ない。
はじめが消えなかった理由、消えたくなかった理由はなんともピュアで、果てしなくピュアで、おじさんは参ってしまった。

 

・BLUE ★★★★☆
とある女の子の元に届けられた、世にも奇妙な動く人形たちの物語。ブルーという名の人形は、他の人形と違って余り物の布切れで作られ、他の人形とは差別される日々。なんとかして、自分も他の人形のように大切に愛情をもって接してほしい。しかし、女の子は不細工なブルーには目もくれず、乱暴な弟に渡してしまう。ブルーの運命や、いかに。

すごく想像力を刺激してくる話だったです。人形が動いて、しゃべって、っていうね。しかもその内容が実に人間くさく、地位と名誉におぼれた感じなんだけど、「確かにおもちゃに限らず物って、持ち主の好き嫌いや好きな順序があって、特に大切にするものとかぞんざいに扱う物とかもあるもんなあ」と納得。
設定としてはすごくファンシーなんだけど、あらゆる社会の差別性・虚栄性を如実に描き出した、鋭い示唆に溢れている。
もしかしたら、自分が使ってきた・使い捨ててきた物ものも口をきく事さえできれば同じような事を思ったりしていたのかなあ、とそんな気持ちにもなった。

特に心に残った文は、動いたことがばれて遠くに捨てられて弟と離れ離れになってしまった場面での文。

 ブルーはとつぜん呼吸が止まるようなつらさに襲われた。ぬいぐるみなのでもともと呼吸はしていなかったが、そうなった。その胸の苦しさがかなしいという気持ちだということに気付いた。それまでにもかなしいと思うことはあったが、今度の種類が違った。
 このつらさはなんだろう。布と綿で構成された自分の体のどこからくるのだろう。身のよじれそうな心の痛みに感動すらしていた。王子や王女は世界にこういう感情があるということに気付いているだろうか。

                            231ページ

弟に乱暴にされながらも、ある日猛犬から弟を助けたのをきっかけに、ブルーと弟の関係が親密に近づいていく。この弟というのが、名前はテッドってんだけど、ただ幼いから加減の分からないその実まっすぐな男なんだけども、自分勝手な両親や姉に疎んじられている、哀れな少年なんでやんす。一見幸せそうに見えるファミリーで少々影がさすテッドの唯一の遊び相手がブルーだったのに、ふたりは引き裂かれてしまった。その時の、このブルーの胸の痛み。痛み入ります。

 

思えば、人形の痛みはおろか、人間の心の痛みだって、どこからくるのか分からない。肉とか細胞とか神経とか、そういう説明ができるもので人間だって構成されてるのに、身のよじれそうな心の痛みはどこからくるのか、なんでくるのか。分からない。分からないから、それはもう想像するしかない。それが愛情とか、優しさなのかもしれぬ。
そんなことを思わせる話でやんす。

ブルーのテッドへの愛情に、ただただ拍手。ラストは切ない。

あと、20年ほど前に幼稚園で見た、熊のぬいぐるみが取れたボタンを探して夜動き出す、という映画を思い出した。あれ、なんてタイトルなんだか。

 

・平面いぬ。 ★★★☆☆
将来は彫師になるという友人の山田さんを通して、二の腕に犬のタトゥーを入れてもらったわたし、鈴木ユウ。不思議なこともあるもので、ポッキーという名前をつけたその犬は、たまに動いた。動くところは見せないが、明らかに動いている。犬のにおいもするし、ちゃんと吠える。動くタトゥーの登場のほかにも、大きく変わることがあった。わたしを残して、家族がみんな死んじゃうらしい。私だけを置き去りにして。


最初、なんでこんなひん曲がった性格になっちゃったのかな、と思ったけど、まあそれは特に説明もなく、思春期の一時期だったのかね。家族の呼び方が独特なので、少しく混乱。
でも、段々と家族の真意や存在のありがたさを感じていく様子は温かい。
海にドライブに行く場面とか特に。

あからさまなハッピーエンドではないが、さわやかな結び。