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暇人のイマジン

書評とイマジンを、だだもらしていこうというヴログ。

山本作兵衛 「炭鉱に生きる~地の底の人生記録~」

新書・文芸書・その他 書評 山本作兵衛

「絵などといえるもんじゃござっせん。ヤマの下罪人のぶざまな一生の記録にすぎまっせん。ただ、炭鉱を知らん孫たちに書き残しておこうと思って」。

                          本書紹介文より 

久しぶりに新品の本を買ってこましたろ、と思って本屋を練り歩いて見つけた本。
画文集。珍しいな。炭鉱ってのも。卒論で北海道の炭鉱の聞き書きしてた同級もいたし、読んでみよ。買った。

 

 

 
読了感。色々驚いた。
まず、この時代の人が自分で書いた・描いたのがすごい。この時代って、明治からだいたい昭和戦後にかけて。この時代の人はまず生きてるかどうかも定かではないだろうし、時代的な背景から読み書きが現代と比べて満足にできる人が少ない。
しかも、山本さんは炭鉱というそれこそ過酷な労働環境に身を置いていた人。読み書きの学習に関しては、相当なハンデがあったはず。絵をそれなりに描けるようになる時間もなかったはず(この辺に関しては中で色々語られる)。

そして、炭鉱での労働と生活という、ともすれば歴史の彼方に流されていたことを残しているとこ。歴史に残るのは、どっかと戦争したとか、景気がどうだとか、事件があっただとか、そんなマクロなものが大概で、ミクロな人々の生活風習は残されにくい。しかも、当時炭鉱で働くということは社会的な地位が低いものであり、誰も関心を寄せていなかった。
言っちまえば、今でいうインドのカースト最下層にいる人に焦点を当てたようなもんである。インドの政府、文化人がこのカースト最下層に目を向けて記録しているだろうか。多分していない。インドの産業革命のことは歴史に残っても、カースト最下層の人々の生活・風俗は歴史の彼方に消えていくだろう。でも、インドはカーストがあるから今こうして成り立っているんじゃないか。インドの足元には彼らがある。スポットは浴びないけれども。
同じことが炭鉱にも言えた。

 

そして、この二つが合わさると、パンチがある。人生記録、とあるけれども、これはルポルタージュとも違うし、よくある戦争の体験談のようなものとも一線を画すと思う。インドの例をまた挙げれば、カースト最下層の人が自身の労働と生活を記述した記録のようなもんである。そこには嘘偽りはなく、時代に翻弄された生の姿がある。

 

内容

そんなわけで堅くなってしまったけれども、本のコンセプトというか意味するものが壮絶。なんでもかんでも残せばいいってもんでもないとは思うけど、こういう事を残すのは大事なことだと、おじさんは思うよ。時代の大きな流れから見たら小さな些事かもしれないけど、こうした事があったからかつての発展があって、今があるわけだから。そして何よりも、間違いなくそこに生きていた人がいたわけだから。

 

私たちのような無産階級にとって、飢えほど恐ろしいものはありません。なんとか飢えをしのぐことさえできれば、だれが炭鉱になど下りるものですか。胃袋を干しとうないばっかりに、坑内に下がるのです。炭鉱へいけば、朝から真っ白い米の飯と生きた魚が腹いっぱい、食いたいだけ食わるるぞ、とこう親に言われて、子どもたちはなにも知らずに目を輝かせたものであります。

                         本文98,9ページ

明日の五体満足の保証もなく、毎日10時間以上も穴ぐらに潜りこむ人々。
給与は炭鉱村内だけで流通する切符によって支払われる。しかもその額は少なく、満足な食い扶持にもならない。
穴を掘るために地下水が枯渇し、日用の水道もままならぬ。
搾取され続ける日々の中で、ついに起こった米騒動

他にもたくさんの不合理・不条理なことがまかり通っていたが、様々な理由から炭鉱にいてそこで働くしかなかった人々の姿は、想像の範疇を越えていく。

 

そんな劣悪な環境だからか、人々の互助精神・少ない娯楽文化はホッとするものがあった。
例えば、祭文語りという口演がそれ。福祉制度がまったく整備されない中で生まれた庶民の知恵というか、人情の権化というか。親分衆が設けるもので、金の工面に困った人はここで一席話をすることでおひねりをもらった。こうした救済法がいくつかあったという。

また、全国各地の村などを渡り歩く旅芸人たちの描写も細かく描いてあって、面白い。稲荷さんとか菓子売り、ノゾキといった紙芝居の類とか。ノスタルジイの極み。

 

 

前半、大げさなことを書いたような気もするけど、単なる興味・関心としてこうした生活・風俗を知るというのは、いいと思う。なんの役に立つではないけれども。
筆者は特に絵を勉強したわけではない、とのことだが見ていて飽きのこない味のある絵というか、温かみのある絵。心底、いろんなもんが詰まってるんだろうな、と思う。


ということで、買って良かった本。
石牟礼道子と菊畑茂久馬の書評もオツ。