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暇人のイマジン

書評とイマジンを、だだもらしていこうというヴログ。

ミステリ小説と、筒井康隆の「エディプスの恋人」

ミステリ小説。好きな人はめっぽう好きだし、あまり好きでない人はあまり好きでない。ていうか、ミステリに限らず、人によってジャンルの好き嫌い・得手不得手・向き不向きはあるかと思う。ミステリに関して、僕は奥手だった。
てえのは、ミステリ小説の場合、推理・考察が読書活動において占める割合というのが自然と多くなりがち、というのがなんとなくネックであったから。
読書にも色々な楽しみ方があると思うけども、僕はどちらかというと登場人物にありったけ感情移入し、主人公とともに喜び、怒り、悲しみ、笑いたい。本を通じてひとつの疑似体験をする。それが僕自身の読書活動での醍醐味であった。

推理・考察し、隠された何かを追求する。それも読書の、本への没入の一形態ではあると思うが、なんというか、常に冷静沈着な第三者的な視点が本を読む自身の背後にあるような気がして、なんとなくそれが好きになれなかった。それは読書、というよりは謎解きゲームである、という認識だったのね。

でも、そういうミステリ小説への印象が変わった。
この筒井康隆の本で。とにかく面白かった。

エディプスの恋人 (新潮文庫)

エディプスの恋人 (新潮文庫)

 

<あらのすじ>
読心の超能力を持つ高校事務員・火田七瀬は身辺で超常現象が起こる香川智広という生徒に目をつけた。香川がなんらかの超能力者であるという確証はなかったが、その可能性がある以上、同じ特殊な人間として用心するに越したことはなかったからだ。そして、彼の背景を様々に探るうちに、なんと七瀬と香川は恋に落ちてしまう。転がり落ちるように、二人は逢瀬を重ねた。そして、七瀬は香川の身に起こる超常現象の真相を突き止める。そこには、人類の叡智をはるかに凌駕する、超絶対的な法則が渦巻いていた・・。

 

ネタバレあります。 

 

毎度こじつけの感が否めないが、表紙の感想から。
表紙。本を読めばそうなんだろうな、と思うけど主人公・七瀬と香川くんである。多分。
着目すべきは、七瀬と香川くんの腰辺りから放射状にのびるいくつもの線。この線の接点を見るに、両者の、特に香川君の股間に接点がある。
これ、どういうことかいな。

「エディプスの恋人」とある表題から連想されるのは、作中や解説でも取り上げられているように、エディプス・コンプレックス*1である。

とすると、エディプスは香川くんであり、その恋人とは七瀬ということになる。
恋人なので、というと必ずしもそうではないのかもしれないが、愛する者同士の行為のひとつとして、性的な交わりが当然台頭する。それこそ、ムクムクと。
だから、香川くんと七瀬は幾たびもの逢瀬ののち、晴れて身体的に結ばれることになる。


しかし!ここで黙っていないのが、エディプスである香川くんの母親・珠子なんですね。珠子がはじめて七瀬に呼びかけるシーンがこんなんだった。

何をするつもりなのかという七瀬の問いに、「彼女」は答えた。(トモヒロハ)(ワタシノ)(ムスコデス)(オンナトシテ)(ワタシハ)(アナタヨリ)(トモヒロヲ)(アイシテイマス)(ダカラ)(トモヒロガ)(タイケンスル)(ハジメテノ)(オンナノ)(ヤクワリヲ)(ワタシト)(カワッテクダサイ)

                          本文250ページ

本文も赤字で書いてあったこの部分が母としての珠子の言い分なんですね。
「母である私はあなたより息子を愛しているから、息子の童貞は私に譲れ」。

そして、珠子は七瀬の身体に憑依し、珠子と香川くんはつつがなく最初の貫通を終えます。普通に考えればなんちう話でしょうか。近親相姦、ある意味での徹底的な略奪愛。
でもすべて許されるんですね。珠子は今や、普通の女性・母親でなく、全宇宙を支配する超絶対者となっているのですから。全宇宙を取り仕切る者からしたら、一組の男女の事情など知ったこっちゃないのでしょう。神、こわい。

 

母は親でもあり、恋人でもある。「エディプスの恋人」たる由縁です。

そんなこんなで、この事件は七瀬にとって初めての性交であり、香川くんとの関係を今後構築する上で重要な意味を持つものになった。
香川くんの父・頼央から聞かされた珠子に関する話が夢物語でないこと、自分が選択してきたと思っていた過去・現在がすべて神に導かれたものであり未来もその域を出ないこと、を実感したのです。

そういったことから、この交わりは物語の最重要事項として認識されるものであり、それゆえにこのことが表紙に仄めかされているのではないでしょうか。

 

表紙って意外と色々と語ってるもんだなあ、といつになく思います。

 

 

他にも、色々と面白いことが書いてある。
例えば、「昨今の女性進出社会の背景にあるもの」とか。
これは筒井康隆の全くの創作なんでしょうが、女性が今どんどんと進出する動きが強くなっているそのワケが、なるほど確かに。と頷けるほど説得力があるし、話として合点がいく。宇宙の統括者が女性になったから、かあ。

ちなみに、この前の統括者は男性だったということなんですが、宇宙の流れって男と女という生物的な分類によって仕分けされてる、ってことなんでせうか?

七瀬が憑依された時に、七瀬は一時的に神の視点を体験することになって、他の惑星にいる文明・生命体を感じたとのことですが、地球以外の惑星にも男女の別という枠組みがあるちうことなんでしょうか?

 

あとはやはり、物事のすべては神の意志によって決定されたものであり、そこに人格とか選択による結果とかそういうものは皆無だ、ということも面白かった。というか、怖い。あるいは虚無。あるいは・・・安らぎ。
これは自律的に自らを高める人にとっては、ある意味空しく映るかもしれない。享楽的に生きる人にとっては、「こんな俺に誰がしたってんだい?そりゃ神だよ、あんた。神がしたんだから、しょうがねえよ。酒でも飲もうぜ。ほほ」と開き直る言い訳になるやもしれない。

この神の御業に対し、僕らはどう対峙すればいいのか。
分からん。対峙するということ自体がすでに的外れな言動なのかもしれない。

 

こな感じに、考えれば考えるほど分からなくなる。
分からないから、あとはもう、足りない頭を使ってできる限り想像するしかない。
そして、その行為は一見非生産的であり、一種の自慰ともいえるが、この脳みそを活用して夢想するという事が、これまた楽しい。
脳みそを活用するということ。夢想すること。それはおそらく、地球上ではホモ・サピエンスだけに許された特権的な行為である。

そして、ミステリ小説はとにかく脳みそを使う類のものだった。
そう思うと、ミステリ小説は僕の思っていた以上に人間くさいのである。

考えること。そこに人間の尊厳があると、パスカルという偉い人は言っていた。
ミステリ、万歳!

 

すっかりミステリ敬遠派からミステリ礼賛派となった僕ですが、今更ながらこのエディプスの恋人がザ・ミステリ!かどうかと言われると自信がない。かたじけないこと、この上ない。SFにジャンル分けされていたのも見かけたし、SFミステリとしているのもあった。
ちうことで、本格的なミステリを読もうと思った。のであった。
もちろん筒井康隆七瀬シリーズも期待。

 

 

*1:ギリシア神話に起源。エディプスは父を父と知らずに殺し、母と結婚した。言っちまえばマザコンである。