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暇人のイマジン

書評とイマジンを、だだもらしていこうというヴログ。

浅田次郎 「プリズンホテル 秋」 (と、おしゃれ手帖について少し)

書評 浅田次郎

<プリズンホテル 

浅田次郎ピカレスク小説シリーズ「プリズンホテル」の第2章、秋です。

作中の時間経過は一泊二日ですが、4章からなるシリーズの中で最も長いお話でした。

 

プリズンホテル〈2〉秋 (集英社文庫)

プリズンホテル〈2〉秋 (集英社文庫)

 

 モミジが映える、きれいな表紙です。

 

<あらすじ>
山あいにひっそりと建つ任侠団体専用の奥湯元あじさいホテル。またの名をプリズンホテルとするこの極道の安息所にも、秋が来た。ついでに新たなお客人も来た。今度の客人はお得意様の大曽根一家とまさかの警察、ついでにしがない元アイドルとその愛人。

血の気の多い武闘派任侠・大曽根一家と、お忍びの旅行できた警察の様子は一触即発待ったなし。そこへ血迷った売れないアイドルが乱入し、会場はパニックの渦に。極道と警察、アイドルと愛人という不思議なつながりが織りなす今宵の奥湯元人間劇の結末やいかに-。

主人公・孝之介の付き人も変わって、プリズンホテルでまた新たな物語が紡がれます。

 

 

元アイドル・ナナと、その愛人でありマネージャーでもある林とか、真野みすずとか変わった強盗犯とかいろいろ出てきましたが、やっぱり秋で印象深いのは警察と極道の関わりです。

 

1、桜がつなげる不思議な関係

同じ桜の紋を掲げる作中の極道と警察。

南極と北極みたいな関係ですよね、この二つの関係って。おそらく。
あるいは川の両岸に立ってにらみ合う、そんな感じ(映画パッチギの川でのケンカを思い起こさせます)。

いや、南極と北極が対立しているわけではないと思いますが。あくまで「対するモノ」としてね。南極とか北極とかが「あいつら・・・」とにらみを効かせるのは、パラオとかパプアニューギニアとかそんな暖かいとこだよ、たぶん、知らんけど。それにしてもパ行がつくと南国感出るのはなんでだろう。

 

いかん、話が逸れた。まあ、川でにらみ合うのは置いといて、考えてみると南極と北極って環境的にはけっこう似ている。どっちも寒くて不毛の土地で、ウイルスさえも生きていけないような極寒の死の土地。

だから、多分そこで生きていくに必要な心構えとか、通ずるものはあるはず。

そして極道も警察も、おそらくどこかしらで部分的にリンクするものがあるんだろうな、と感じました。

 

例えば、強盗犯の香川新介を発見した時のナベ長と松倉のやり取り。

「貸し-?あんたが、あの木戸仲蔵にか?ハハッ、そいつァいいや」
いきなり渡辺の手が松倉の浴衣の衿元をつかみ上げた。微笑は消えている。ナベ長はうって変わった口調で、松倉の耳元に囁いた。
おい、松。てめえたかだかの出世をしたからって、のぼせ上がるんじゃねえぞ。星の数より飯(メンコ)の数ってこともあるんだ。黙って俺の言うとおりにしろ」

松倉は思いがけぬ渡辺の形相にひるんだ。こんなに怖いおまわりは二人といるまいと思った。

                        本文291ページより

大した出世をすることもなく、万年旅行幹事で定年を迎えようとしている冴えないナベ長は、普段は年下の上司からも馬鹿にされているが、その実ヤクザの親分とも膝を交えて話すほどの格を持っていた。
しかし、人情を重んじて人が好すぎるあまりに出世することは叶わなかったんですね。

そんな頼りないナベ長がいきなり本当の顔を見せてきたのだから、調子に乗っちゃってる松倉クンはびっくりです。

 

普段は柔和で我を張らないナベ長ですが、ここぞという時に本性を出してくるその姿は、まさにのひとこと。
極道の方も柔和で我を張らないのか、といったらそれはそうじゃないのかもしれませんが、聞いた話によれば一般人に対しては普段はやさしく、礼節も重んじていて凛としたものを感じさせるそうです。そして「カチコミ」があったら鬼の形相で敵をバッタバッタとなぎ倒し、親父の身に危険が及べば身を捨てて護る。

義理人情を大切にして、我欲を張らず、そしていざという時には本気を出す
そんなところがナベ長と極道に似通ったところなのかもしれないです。

 

と、ここまで書いてみましたが、これじゃ警察と極道の共通点じゃなくて、ナベ長と極道の共通点になってますね・・・。

まあ、どっちも最終的に力に訴えるところとか、桜紋をひっさげてるところとか、色々と因果な共通点はあるのかね。警察は宴会では暴れまくって礼節もなにもないらしいし。なんか暴れちゃう、ってとこも似てるかもしれない。

 

あと、僕の父が警察官をやっていて、そういう話も聞いてきたから、なんか似通ってるイメージがあるのかもしれないです。うーむ。

 

あ、あと警察≒極道と言っているわけではないです・・・。
警察関係の方や極道関係の方がこの記事を読むことがあったとして、互いに「なにぃ!あんなやつらと同じにされてたまるかってんだ」「へい、アニキ!」ってことがあったら怖い・・。

とにかく説明するの難しいんですが、警察と極道の不思議な関係がこの本の醍醐味でした、ということでした。

 

 

2、シゲちゃんと黒田の親分

夏で繁と黒田のやり取りがあってから、この関係性がとても好きになったんですが、本作でも語られてました。花沢家の夕食のシーン。

「カシラが言うにはよー、バイクってのァ、小僧にゃ乗れねーんだと。決して後ろにさがれねえ、走っていなきゃ倒れちまう、雨が降りゃ雨に向かって、風が吹きゃ風に向かって走り続けにゃならねえって。バイクってのァそういうもんなんだってさー」

支配人は顎を止めて、黒田が不肖のセガレに教え諭した千金の言葉を胸に刻んだ。
何が何でもそれを息子から取り上げようとした自分に比べ、それの魅力と本質とを語った黒田は何と聡明な人間なのだろう。これこそ極道の訓えだと、支配人は思った。
バイクから目を離して振り返った繁の瞳は、ふしぎなくらいに輝いていた。

                       本文305ページより

 

不良にも極道にも憧れるわけではありませんが、花沢支配人が感激するのも納得。

あたまごなしに相手の主張を捻じ曲げるわけでなく、その本当の価値を教えることで相手の改善にも努め、かつその長所を伸ばす。
てなところなんでしょうか、支配人が感激したのは。

うーん、マンダム。

繁がスクスクと、って感じではないですが、曲がりなりにも少しずつ更生していっているのが人の親になったようで嬉しいです。
この師弟関係はシリーズを通して期待。

 

 

他にもいいシーンがたくさんありますねえ。

カラオケバー「しがらみ」での真野みすずとナナのナイトショーは、この日にプリズンホテルに泊まった客人たちのふしぎな巡り合わせがピークに達するところでしょう。

 

また、母・清子の代わりに孝之介先生のお供をすることになったミカは、「おまえ6歳じゃねえだろ」感たっぷりの器量の良さが光ります。25歳も半ばを迎える僕が恥ずかしくなるくらいのしっかり者。・・・ですが、孝之介は相も変わらず偏屈でそれなりに乱暴。孝之介め!!
でも、このあたりから孝之介の心境にも少しずつ変化が出てきて、憎めないところもチラホラ。

 

あとはなんだ・・・またナベ長と松倉ですが、終盤でナベ長の過去を知り涙する松倉の姿は心に迫るものがありました。
ナベ長、カッコいいなァ・・・。

 

あ、あと言及すべきは仲居の人々!
ゴンザレスとアニタをはじめとする海外から出稼ぎに来ている外国人が、もうたまらんくらいいい味を出している。このホテルにファニーさをもたらしてくれるのは、このタガログ語を操る異邦人たち。

日本よりも格段に貧しい国から来た彼・彼女らに、日本人と同じだけの給料を与える仲蔵との関係が美しいことはさりとて、彼・彼女らのセリフが単純におもしろい。

「ホ、ホワット!ナニヨコレ。キモチ悪イヨネー」
「ウワ、署長サン。ドシタ、ヤクザニヤラレタカ」
「・・・ヒドイネ。トンデモナイネ。ソレ、ゴンチャンガ親分ヲ縛ルヨウナモノヨ」

                      本文398,9ページより

例えばこんな感じ。

僕のギャグセンスの問題かもしれないが、ただのタガログ訛りでマッチョな黒人が仲居の格好をして話している姿を想像すると、笑えてくるのはなぜだろうか。

ちなみに、このゴンチャンことゴンザレスが登場した時はいつも、おしゃれ手帖という漫画に出てくるスライという黒人をイメージしてしまう。

この「おしゃれ手帖」という漫画は実にくだらなく、「地球上で有用性からかけ離れた漫画コンテスト」というものがあったら間違いなくノミネートは確実だろうという漫画である。ちなみにスライはこれ↓。

 

愛蔵版 おしゃれ手帖 5 (ヤングサンデーコミックススペシャル)

愛蔵版 おしゃれ手帖 5 (ヤングサンデーコミックススペシャル)

 

 本当にどうしようもない漫画で、いわゆる読む人を選ぶ漫画らしいが、ハマればその人にとっては聖書並の神々しさを持つと思うので、興味が少しでも湧いたら手に取ってみてほしい一冊です。

 

・・・よく考えるとこのスライのイメージが強くて、僕の脳内で自然とゴンザレス=スライの式が成立してしまっているから面白いのかもしれない。

ただ、ゴンザレスやアニタの存在がプリズンホテルをより一層魅力的な場所にしていることは間違いありません。

 

他にもミッキーのぬいぐるみを抱えた仲蔵とか、テーブルの下に隠れる梶と服部さんなどお気に入りのシーンはたくさんありましたが、長くなるとあれなのでこの辺で。

 

プリズンホテル秋は一泊二日の短い時間ではありますが、とっても中身の濃い、人情味に溢れたツアーとなっていました。

 

 

PS:おしゃれ手帖には他にも強烈なキャラクターがたくさん出てきて、僕が住んでいた寮のファンの間では「スライ派」「チャック全開くん派」「メガネ派」などささやかな派閥があった。僕は寺見須初範(てらみす・しょぱん)という未だバブルの時代を生きる男が好きだった。